コンビニの彼
”ここにこの子が来たら、お前から手帳を返してやってくれよ”
猿はあたしに両手を合わせて言ったあと、頬を桜色に染めながら
”…ついでに彼氏がいるかどうかも…”
と蚊が鳴くほどの小さい声で呟いた。
…………。
何で、あたしがアンタの恋を応援しなきゃなんないんだーっての!
第一、会ってそんなに経ってないし、仲が良いわけでもないのに!
そんな義理なんかないし!
あーめんどくさい!!
「じゃあ引き受けなきゃ良かったじゃない」
いつものごとく面倒臭そうに呟いた真須美のその言葉にあたしは現実に引き戻された。
初夏の日差しが眩しい昼休み。
あたしと真須美はいつもの食堂で昼食を食べていた。
といっても、主に食べているのは真須美であたしはご飯も食べずに真須美に愚痴を零していた。
最近いつも猿の愚痴ばかりで、まともに昼食を食べてる日はないんじゃないか、あたし。
「…だって、ご飯奢ってくれるって言ったんだもん…」
あたしは昼食に持ってきた蒸しパンの包み紙を開きながら言った。
「はぁ?たかだかそんな報酬で不良くんの条件をのんだわけ?
安くない?」
真須美は呆れた様子で言った。
「安くないわよっ!あたし一人暮らししてんだよ?食費は節約できたらするに越したことないじゃない!」
「…まぁ、史枝がそれでいいならいいんだけどさ、
毎日のように不良くんの悪口を言ってるんだから、もっと高い条件にした方がストレスの発散になるんじゃない?
あたしならそうするけど」
真須美はパックの野菜ジュースをゴクゴクと飲んだ。
「いいの!奴には高いものを奢らせるんだから!」
「あ、そう。
はい、ご馳走様」
真須美は面倒臭そうにあたしの話を聞き流すと、空になった弁当箱の前で手を合わせた。