コンビニの彼
バイトに出てから2時間が経過−…。
少女は一向に現れる気配はなし。
そして、まだ雑誌を読み耽る猿。
2時間ずっとあそこに突っ立って外の様子をチラチラと監視している。
それを偽装するための雑誌もあれで5冊目だし。
今日は粘ってるな〜。そろそろ疲れてきたんじゃない。
あたしはあたしで客がいなくて暇だから、レジに立って猿を観察している。
早田も帰っちゃったしね。
「ね〜猿。あんた何時からいるわけ?それだけ待っていないんだったら今日は来ないんじゃないの?」
逆に暇疲れしてしまったあたしは猿に声をかけた。
「うるせぇな、俺の勝手だろ」
「そんなにその子が好きなの?会ったことがないのに?」
「だから、うっせーんだよ!黙って仕事してろよ、てめぇは!!」
顔を赤らめ声を荒げる猿。
「お客もいないし、することもないのよ。だからあんたに話し掛けてんでしょ〜」
「ヒマ人が」
「あんたもでしょ」
初めて会ったときはあんなに刺々した言い方しかしなかったけど、最近じゃ少しは心を開いてくれたのか、言い方が柔らかい気がする。
「あ、そうだ。報酬の件だけどGODIVAのチョコレートがいいな〜!」
「は?てめぇ、そんな高ぇものやるわけねぇじゃん」
「あたし一度は食べてみたいと思ってたんだよね」
「人の話を聞けよ」
猿とこんな風に喋ってるこの時間が、何だか楽しい。
ただ単に暇だからかもしれない。
…でも違う予感もする。
その予感はあたしにとって気付いちゃいけないことかもしれない。
だから今は気付かないフリをするんだ。