コンビニの彼


あたしが従業員の通路を通りレジに出ると、そこには退屈そうにレジに突っ立っている早田和博の姿があった。


「何ボーッとしてんのよ」と、あたしはそう声をかけ横に並んだ。

「…ああ、史枝か」

早田は別にあたしに驚いた様子もなく、のんびりした口調で言った。

きっと早田はあたしが声をかけるまであたしの存在には気付かなかっただろう。


「いや、学校の課題とかに追われてて全然寝てないんだ」

早田が欠伸をしながら両手で顔を覆った。


「あたしも今日課題が出たの。しかも提出は明日!
今日は徹夜決定だよ〜!」

「マジで?ああ、そっか!史枝は看護学校通ってんだっけ。
看護の道は大変だって言うよな〜」

早田は”お互い大変だな”と言いながらまた欠伸をした。



実はあたしと早田は昔付き合っていた。


早田とはここで知り合った。

早田もこの近所に住んでいて、バイトのシフトが一緒になることは少なくはなかった。


バイトが重なる度に仲良くなり、流れのまま付き合うことになったんだけど、

お互い、付き合うということが初めてで、デートで2人きりになると何だかギクシャクしてまともに会話が続かなかった、という思い出がある。



あたしは早田のことを”恋人”としては、どうしても見れなくて、
それは早田も一緒だったようで、気まずいままは嫌だったから、あたしたちは”友人”に戻ることになった。




それから2人で、まともに仕事をしないままレジに突っ立って、しょうもない話に花を咲かせていると、

すぐ近くで、ドンッ!!という音がした。


あたしと早田はビクッ!と同じように肩を上げて、同じタイミングで音の方に振り向いた。




そしてあたしはコイツと出会ったんだ。


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