君に咲く花火
「違う。実羽、違うよ」

うなだれた私を元気づけるように、ギュッとつないだ手に力が入った。
顔をあげる。

「実羽、海もビッグブッダも、僕が一緒に行きたかった。だから、無理ちがうよ」

「ソムチャイ・・・」

少し息が荒くなったソムチャイが、瞳を閉じて大きく深呼吸する。

「・・・怖くないよ」

「え?」

聞き取れなくって顔を近づけた。

「死ぬの、怖くないよ。神様、待ってくれてる」

「やめてよ、なに・・・言ってんの」

初めてソムチャイから聞いた“死ぬ”って言葉が私を揺さぶった。
それまでは、あまりにリアルじゃなくて、心のどこかで『大丈夫』って信じていた。

音も立てずに、それが崩れてゆく。
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