*悪役オムニバス*【短編集】
優菜が、美香のハラワタをむしり取ったのだ。
その感じたこともない激痛に、美香は凄絶な叫声を上げた。
「きいぃやあああああッ‼︎」
のたうちまわることもできず、その場で悲鳴を上げるだけの美香に、優菜はこう言い放つ。
「説得力に欠けるのよ。
そんなありきたりなこと、誰だって言えるわ」
冷徹にあしらい、優菜は美香のハラワタを捨て、怪物たちの群れへと下がっていった。
「どうぞ……めしあがれ」
その言葉とともに、動かない美香に向かって、無数の怪物たちの手が伸びた。
美香の姿が跡形もなく消えると、妖たちは満足げに喉を鳴らし、膨れた腹を叩いた。
「はあー、食った食った。
久しぶりのごちそうよ」
「ほおんと。
滅多にありつけるもんじゃあないわ」
「最後の娘も、まことに良い味であったわ」
無人の教室に寝そべり、妖たちは愉悦の言葉を口々に漏らす。
優菜は美香がいたはずの場所にしゃがみ込み、かつてお揃いだといって買った花のヘアピンを手に取った。
「悔やんでおるか?」
物思いにふけったような顔の優菜に、漣が問いかける。
優菜はしばらく考え、頭を横に振った。
「いいえ……そもそも、彼らを差し出したのは私ですから」
目を伏せ、優菜はほくそ微笑んだ。
「なんの感慨も、ございません」
冷たいことを言う優菜に、漣は小さく笑みをこぼす。
「存外、丈夫な娘よの。
さすがは儂の妻といったところか」
漣は優菜を抱き寄せると、そっとその唇に触れた。
「そなたも今宵より、我ら妖の仲間入りよ」
漣の紅い瞳に、優菜の姿が映る。
額から乳白色の角を生やした、優菜である。
「帰ったら、先祖代々より受け継がれた霊木の下駄を履くが良い。
ちょうど、そなたにぴったりな大きさのはずじゃ」
漣の言葉に続き、妖たちの歓声が、血なまぐさい教室にこだました。
【終】