*悪役オムニバス*【短編集】
俺は化け物だ。
腕の傷が徐々に塞がっていくのを感じながら、マスラは思った。
この異形のごとき眼も、この爪も、この驚異的な回復力も、この残虐な潜在意識も、すべて人外のものだ。
どうしてかマスラには、自身がなぜ化け物になったのか、心当たりがあるような気がした。
傭兵の支配欲、色欲。
そしてそこから得る快楽、解消。
傭兵の兵舎で生まれた異形の子だけに、マスラは『人間の欲望の権化』なのだった。
そしてその権化の本性こそ、マスラの中に眠る潜在意識であり、欲望の捌け口である隷属の者を前にすると、それが表に出てしまう。
マスラはそう推測するが、はたから見てみれば、結局そんなものは、自分の罪を見えないもののせいにしているに過ぎない。
もちろん、自殺を試みたことは何度もあった。
だが驚異的な回復力が祟った。
首をつっても、死ぬ前に他の兵士が駆けつけてくる。
池に身を投げても、すぐに体が浮き上がってくる。
毒を飲んでも、吐き出してしまう。
首を掻き切っても、意識がなくなるより先に治ってしまう。
どうやらマスラは、首と胴体を完全に切り離さなくては、到底死ねないらしい。
だから、誰かに殺されない限りは、死ぬことはできないのだった。
「誰か……」
少年兵は祈った。
誰でもいい。
この国の残酷な傭兵でなければ、誰でもいい。
どうか自分の首を刎ね、自分が憎いであろうあの少女の前に、その首を突き出してやって欲しい。
そうしなければ、次はあの少女を殺してしまう。
「誰か……俺を殺してくれ……」
自己の消滅。
それを願うあまりに、マスラは気がつかぬうちに涙をこぼしていた。