*悪役オムニバス*【短編集】
そして後妻は、お抱えの召し使いに命じて白雪姫に毒が混入したパイを食べさせた。
「お妃さまから、姫さまへ贈り物でございます」
その罠にまんまと引っかかった白雪姫は、そこでぽっくり死んでしまったのだという。
「馬鹿な娘だねえ」
魔法使いは呆れ返った。
「普段から自分を腫れ物扱いしていた人間が、急に優しくしてくれるなんて不自然じゃないか。
しかも食べ物に釣られるなんて」
「俺、食いしんぼうでさ」
白雪姫は男のように頭の後ろで腕を組むと、ちろり、と悪びれず舌を出した。
まったく馬鹿な娘だ。
これでは王女の位を継承させたくなかった後妻の気もわかる気がする。
とんだ天真爛漫王女である。
(まあ、駒としてはちょうどいいか)
直情的で素直な人間ほど、駒に適したものはない。
しかもこの白雪姫は相当な馬鹿である。
魔法で心を奪うまでもなさそうだ。
魔法使いは口に手を当てながら、その裏で含み笑いをするのだった。
「けど、そうなると……。
もう死んだことになってる俺が城に帰ったら、みんな驚くだろうなあ。
また義母上に殺されちゃうかもしれないし、どうしようか……」
呑気な白雪姫は、魔法使いの目論見など知らずに、城に帰るべきか否かを思案している。
もちろん魔法使いには、白雪姫を家に返す気など毛頭もない。
「一応言っておくけど、君はもう人ではないよ。
帰ったところで化け物扱いされて、魔女裁判にでもかけられるに決まってーーー」
「よし決めた!」
魔法使いが言い終える前に、白雪姫は生気を湛えた眼になり、勢い良く立ち上がった。
「魔法使い。
しばらく俺をここに置いておくれよ」
白雪姫はとんでもないことを言い出した。