*悪役オムニバス*【短編集】
その日からは、日々が楽しかった。
していることはいつもと大差ないが、その他愛のないものも、それまで漠然と日々を過ごしてきた魔法使いにとっては、この上なく愛おしかった。
子供の心臓を喰らっても満たされない穴が、満たされていた。
(このままずっと)
ユキノと添い遂げて生きようか。
魔法使いは大きなツボの中で泡をふく、紅色の水をかき混ぜながら考えていた。
そして、春がやってきた。
街のほうで桜が花をつけはじめた、暖かな春のこと。
ユキノは外に出かけたまま、まる二日も帰ってこなかった。
(どうしたんだろう)
さすがに心配し、ユキノを探そうと魔法の鏡の前に立った。
しかし、そこで魔法使いは、無数の重い足音が家の前にやってくるのを聞き取った。
ーーーー魔法使いは、どこからともなくやってきた白い鎧の衛兵に捕らえられた。
「お前が、白雪姫に呪いをかけた魔法使いだな」
そう、衛兵は言った。
こうして、魔法使いの幸せは幕を閉じた。