*悪役オムニバス*【短編集】
ユキノは昔から外を駆け回るのが好きだった。
勉学などそっちのけで、泥だらけになるまで外で遊んだことは一度や二度ではない。
読書と趣味に励む妹たちからは、すこし煙たがられたこともあった。
城での生活は、すこぶる窮屈だ。
父は愛娘であるユキノ味方だったが、後妻の腹黒さを見抜けていない。
だから毒をもられてユキノが死んだ時も、後妻とその金魚の糞である主治医に言われるがまま、死因を食中毒で片付けてしまうのだ。
それに比べて、魔法使いの家はとても楽しかった。
城ではさせてもらえないことを、ここではたくさんさせてくれる。
王家の着物などという動きにくいものも、きなくてもいいのだ。
ユキノは街の子供たちが着るような服をもらった。
ーーー満足だった。
森は夜のように暗いが、そこにはちゃんと動物たちもいる。
魔法使いも暇があれば、魔法というものを見せてくれる。
なにより、魔法使いはユキノを大切にしてくれた。
魔法で蘇ってからは、ユキノは幸せだった。
しかし、幸せというものは長続きしない。
どうやら神様とやらは、人を救うのではなく、人の幸せを奪うようにできているらしい。
七日前、ユキノは洗濯を済ませて、すっかり長閑になった外へと遊びに出かけた。
夜通しで、あやしげな壺の中の水を沸騰させていた魔法使いは、そのまま襤褸のソファに横たわり、寝込んでしまっていた。
(寝てやがんの)
ユキノは魔法使いにマントをかけると、机に置かれていたリンゴをひとつ、しゃくりと齧った。