*悪役オムニバス*【短編集】
「こいつに決めた」
消え入りそうな声で、少年兵はサナを指差したのだった。
しかしサナを買ったくせに、彼は名前を教えてはくれなかった。
ボロとなってしまった民族装束を着た少女の手首を掴むや、さっさと地下牢を後にした。
賑やかな商店が立ち並ぶ地上へと出て、兵舎へとサナを連れ帰った。
サナは怯えた。
傭兵に買われた植民地の女がどうなるか……。
火を見るよりも明らかなことだ。
逃げたい。
しかし立ち止まろうとすれば、少年の紅の瞳が、殺気を漲らせてサナを睨みつける。
逃げられやしないのだ。
諦めて、無抵抗になった少女をつれて、少年兵は小股で兵舎へと戻った。