*悪役オムニバス*【短編集】
森の外では、そろそろ桜が満開になっているだろう。
起きている時、魔法使いの肌はまるで凍え死にした死人のような青白さだった。
しかし“何かに満たされている時”だけは、その肌に体温が戻る。
満足げに布団にくるまった魔法使いは、まるで白椿のような肌の色になっていた。
(桜が似合いそうだ)
この白椿のような色に、淡い桃色の桜を重ねてみたい。
衝動的に、ユキノは立ち上がっていた。
外の世界には、あちらこちらに桜の木がある。
花のついた枝を一本とってきて、花瓶にでも飾ろう。
いままで花になど興味もなかったユキノは、急に色気付いて、外へと飛び出した。
それがまずかった。
森から出て間も無く、地に聳え立つ立派な桜の下。
偶然にも、隣国の王子が、桜の下に立つユキノの姿を見つけたのだった。
「あれは、白雪の……」
死んだはずではなかったのか?
王子は呟いた。
その隣国の王子は、近隣の山での狩りから帰ってくる途中だった。
そして帰りに馬を走らせていたところで、ユキノを見つけたのである。
「あなたはこの国の王女、白雪姫ではないか」
王子は迫るように言った。
……そして乱暴なことに、王子はうんもすんもなく、首を横に振るユキノを馬に乗せ、白雪姫の屋敷へと走ったのだった。