*悪役オムニバス*【短編集】



森の外では、そろそろ桜が満開になっているだろう。


起きている時、魔法使いの肌はまるで凍え死にした死人のような青白さだった。

しかし“何かに満たされている時”だけは、その肌に体温が戻る。

満足げに布団にくるまった魔法使いは、まるで白椿のような肌の色になっていた。


(桜が似合いそうだ)


この白椿のような色に、淡い桃色の桜を重ねてみたい。

衝動的に、ユキノは立ち上がっていた。

外の世界には、あちらこちらに桜の木がある。


花のついた枝を一本とってきて、花瓶にでも飾ろう。


いままで花になど興味もなかったユキノは、急に色気付いて、外へと飛び出した。





それがまずかった。





森から出て間も無く、地に聳え立つ立派な桜の下。

偶然にも、隣国の王子が、桜の下に立つユキノの姿を見つけたのだった。



「あれは、白雪の……」



死んだはずではなかったのか?


王子は呟いた。

その隣国の王子は、近隣の山での狩りから帰ってくる途中だった。

そして帰りに馬を走らせていたところで、ユキノを見つけたのである。


「あなたはこの国の王女、白雪姫ではないか」


王子は迫るように言った。

……そして乱暴なことに、王子はうんもすんもなく、首を横に振るユキノを馬に乗せ、白雪姫の屋敷へと走ったのだった。







< 30 / 100 >

この作品をシェア

pagetop