*悪役オムニバス*【短編集】
「ユキノ」
連れて来られたユキノを見るなり、王は仰天した。
しかしそれよりも白雪姫の生還に驚愕していたのは、後妻だった。
完全に息の根を止めたはずの娘が、ここに帰ってきたのだ。
後妻は卒倒したっておかしくはなかった。
「暗夜の森のそばで、この方が桜を摘んでおららたのです」
王子は余計なことをぬかした。
……後に聞いた話では、王子はユキノに惚れ込み、縁談を持ちかける機会を得たたいがために、王の前で状況を事細かに説明をしていたのだという。
それを聞くなり、青ざめていた後妻が閃いたように口を切った。
「そういえば暗夜の森には、世にも恐ろしい魔法使いが住んでいるとの話を、耳にしたことがございます」
自分が毒を持ったことが明らかになるのを恐れたのだろう。
後妻はあることないことを王の前ででっち上げた。
「まさかその魔法使いが、我が愛しき娘を死なせ、呪いをかけて生き返らせたのでは……?」
あたかも本当にそれを悟ったかのように、後妻はでまかせを言う。
女は女優とはよくいったもので、後妻の顔は迫真の演技であった。
「嘘だ!
魔女はお前だろう!」
咄嗟に、ユキノは叫んだ。
そうだ。
真の魔女を言うなら、魔法を使う女ではなく、欲にまみれて娘を殺害した、この女である。
しかし、猪突猛進なユキノをあざ笑うかのように、後妻の演技は続いた。
後妻は傷ついた風に息を呑み、軽く仰け反った。
「おお、なんてこと……。
魔法使いの呪いで、父母のことさえ忘れてしまったのね」
そう言うなり、後妻は顔を覆って泣き崩れる。