*悪役オムニバス*【短編集】
「うむむ……」
王は顎に手を当て、渋い顔をした。
「父上!」
藁にもすがる思いで、ユキノは王にむかって声を放った。
しかし、
「……衛兵を、暗夜の森に向かわせよ」
王が下した判断はこうだった。
その言葉の意味は、言わずとしれている。
『魔法使いを捕らえよ』
そういうことなのだ。
「待ってよ!」
ユキノは血反吐を吐かんばかりに声を張った。
「魔法使いは無実だ!
悪いのは」
ユキノが言い募る前に、王は後妻の傍にいる主治医の肩に手をおき、娘から背を向けた。
「父上ってば!」
ユキノは走りだそうと踏み込んだが、後ろにいる王子に腕を掴まれ、前に進めない。
ユキノの脳裏に、処刑台に立つ魔法使いの姿が浮かんだ。
ーー『魔女狩り令』
この国を含む、大陸すべての国において施行されている法である。
かつて厩戸で生まれた、今は亡き“神の子”を教祖とした宗教により確立された法で、文字通り、魔法に携わる者を裁判にかけるものである。
……裁判にかけるといっても、それは全く平和的なものではない。
捕らえた者を拷問にかけ、無理矢理に「やった」と言わせ、最終的に処刑する。
魔女狩り令はそういうものだ。
この法によって、魔法使いや魔女だけでなく、女医師なども数多く命を落としている。
ようは、その宗教に背く行為に従事するものを、徹底的に排除する法なのだ。
なんとも馬鹿げた話だが、これが今の法なのだから、止めようがない。