*悪役オムニバス*【短編集】
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「ふあーあ……」
牢屋の中で、魔法使いは盛大に欠伸をかいていた。
明日には処刑されてしまうというのに、この魔法使いときたら、緊張というものに欠けている。
「魔法使い」
魔法使いの姿を見つけるなり、ユキノは鉄格子の前に駆け寄った。
「やあ、ユキノ」
「なにが、やあ、だよ。
拷問されてるって聞いたから、心配したのに」
ユキノは呆れた。
魔法使いは、遊び人風の軽い印象が強い男だが、こんな時までへらへらしている。
看守たちが、
「あの魔法使い、どんだけ拷問したって涼しい顔をしてやがる」
と話していたのを、ユキノは聞いていた。
拷問と言えば、熱した釘を刺すか、指を包丁で切り落とすのが一般的だ。
だからそこ余計に魔法使いを心配して、ここまで忍び足でやってきたというのに、魔法使いには傷ひとつだってついていない。
すると魔法使いは「あっはっは」と声をあげて笑った。
「私をそんじょそこらの魔法使いと同類にされては、困るねえ」
言うと、魔法使いは、軽々と鉄製のカセを引きちぎった。
いや、鉄でできていた枷が、一瞬のうちに紙の紐に変わったから、引きちぎることができたのである。
「釘を刺された程度では、痛くも痒くもないよ」
魔法使いは笑った。