*悪役オムニバス*【短編集】


*



「ふあーあ……」



牢屋の中で、魔法使いは盛大に欠伸をかいていた。

明日には処刑されてしまうというのに、この魔法使いときたら、緊張というものに欠けている。


「魔法使い」


魔法使いの姿を見つけるなり、ユキノは鉄格子の前に駆け寄った。


「やあ、ユキノ」

「なにが、やあ、だよ。
拷問されてるって聞いたから、心配したのに」


ユキノは呆れた。

魔法使いは、遊び人風の軽い印象が強い男だが、こんな時までへらへらしている。

看守たちが、


「あの魔法使い、どんだけ拷問したって涼しい顔をしてやがる」


と話していたのを、ユキノは聞いていた。

拷問と言えば、熱した釘を刺すか、指を包丁で切り落とすのが一般的だ。

だからそこ余計に魔法使いを心配して、ここまで忍び足でやってきたというのに、魔法使いには傷ひとつだってついていない。

すると魔法使いは「あっはっは」と声をあげて笑った。


「私をそんじょそこらの魔法使いと同類にされては、困るねえ」


言うと、魔法使いは、軽々と鉄製のカセを引きちぎった。

いや、鉄でできていた枷が、一瞬のうちに紙の紐に変わったから、引きちぎることができたのである。


「釘を刺された程度では、痛くも痒くもないよ」



魔法使いは笑った。






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