*悪役オムニバス*【短編集】
「昔の咎が、今になって帰ってきた、と、いうことかねえ……」
魔法使いは卑屈に口の端を歪めて、自らを嘲笑した。
「そんな……」
ユキノは鉄格子を握りしめたまま、呆然と立ちすくんでいた。
うつむいて、また目から涙を零す。
ユキノは泣き虫ではない。
むしろ性格は豪胆で頑丈なほうである。
そんな豪胆な姫が涙するほどに、魔法使いの存在は大きかった。
「ごめんよ……俺が、外に桜なんか取りにいかなけりゃ、こんなことにはならなかったのに」
あの時、王子を殴り倒して森に帰っていれば。
そもそも、外にでようなどと思わなければよかったのだ。
ユキノの口からもれたのは、いずれも後悔ばかりであった。
だがその一方で、魔法使いは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になり、
「え、なに?
桜を取りに行っていたのかい」
と、声をひそめて笑った。
これにはユキノも腹を立てた。
真剣な話をしているという時に笑い出すとは、空気の読めない男だ。
「なにがおかしいんだよ」
「君を見くびっていたよ。
おおよそ、食い物にしか興味がないと思っていたんだが。
君も女の子になったものだねえ」
「馬鹿にしてるのか」
「いいや、安心した」
魔法使いは目尻を細めて、優しげな面持ちになる。
「君がでかけたきり帰ってこないから、何かあったとかと心配をしていたけれど……花を取りに行ってただけと聞いて、ほっとした」
「……明日に処刑されるのに?」
「それはもう、諦めるしかないさ。
今までに行ってきた報いが、こうして返ってきた。
ならば、甘んじて受けるしかないだろうよ」
牢屋の中にあるボロの椅子に、魔法使いは悠々と腰をかけた。
「それにね、私は最近、急速に老いてきたのだよ。
肌にハリがなくなって、髪の中を探れば白髪も出てきた。
子供の心臓で若さを保ってきたから、その心臓を食べなくなってからは、一年が過ぎるよりも早く老けてしまった」
パッとみれば、魔法使いはまだまだ若く美貌を保っているが、美貌が自慢の魔法使いが言うのだから、本当なのかもしれない。