*悪役オムニバス*【短編集】
SIDE③-レイジくんの咄-
*
『ねえ……あんたさ、産まれたい?』
『まあ、そうだよね。
せっかく宿ったわけなんだし。
けどさ、聞いてよ』
『あたしの男がさ、産まれたら俺んとこに引き渡せ、っつーの。
あたしはどっちでもいいんだけど』
『やっぱ、鬼は怖がられるじゃん。
だったら、人の世界で育って欲しいんだよね。
あんたがどんな性格の子かは、知らないけどさあ』
『でも、あたしみたいなアバズレにだけは、なっちゃだめだからね……』
そんな声を、少年は何処かで聞いた気がした。
街の中心部に、円柱型の奇妙な建物がある。
全体を灰色のコンクリートと防弾ガラスで構成された、巨大な塔である。
少年はその建物の三階にある、広い部屋の中にいた。
約十畳あまりにもなる、広すぎるほどの一室だった。
そんな部屋の各々の角に、ベット、テーブル、本棚が置かれているのだ。
のびのびとしていい部屋にも見えるが、その部屋には押入れもクローゼットもなく、まるで監視をするために用意されたような部屋である。
「あら。
嶺子(れいじ)くん、またスプーン齧っちゃったのね」
広い部屋の隅に、ポツンと置かれたテーブル。
そこに少年とさし向かって座っているのは、白衣をまとった女だった。
いかにも科学者といった風体の女だ。
「……ごめんなさい」
少年はしゅんと肩を落として、謝った。
その手には、小さな“歯型”のついた、鉄製のスプーンが握られていた。