*悪役オムニバス*【短編集】
それでも、大きな欲求に敵う子供は一人だっていない。
いなくて当然なのだ。
ちらちらと淡雪が街に舞う、一月の上旬。
防弾ガラスの外に映るのは、元旦を過ぎて福袋を買いに出て来た人々の姿。
公園や空き地に集まって、楽しく遊ぶ子供たち。
(僕も遊びたいな)
嶺子は外に出たことはなかった。
外を知らないだけに、外に対する関心は深い。
嶺子はとうとう好奇心にかられて、こっそりと、その建物を抜け出した。
嶺子は生まれつき、足が速かった。
本気で走ったことはないが、前を走る大人を追い抜くことは簡単だった。
力も強かった。
普通に力を込めただけで、嶺子は何度も、木製の箸を折り、使っていたミニカーもすぐに壊した。
耳も、目もよかった。
夜でも月の光があれば、どこになにが有るのか鮮明にわかる。
隣の部屋の大人たちの会話も、嶺子には筒抜けだった。
嶺子はどこか、異質だった。