*悪役オムニバス*【短編集】




それは子供ながら嶺子も薄々感づいていた。

だから彼らも、部屋に何台ものカメラをつけて、自分を見張っているのだ。



外に出たかった、この部屋にいたくなかった、という欲求が嶺子を動かした。


円柱型の塔の中で動き回る人々の目を盗み、非常階段を駆け下り、嶺子は足早に自動ドアをくぐった。



【第一研究棟】



そう礎に彫られた文字には目もくれず、嶺子は走り出した。

高々と並ぶビル。

小洒落た服屋。

華やかな人々で賑わう料理店。

化粧の濃い少女たちが集う、奇妙な店。

この小さな都市部から一歩外に出れば、その先は昭和風の田舎町だ。

しかしこの小さな都市は、その渋谷のような都会的なつくりで人を集める。

塔から一歩外に出れば、そこは人が行きかう道だった。


「わあ」


嶺子は目を輝かせ、小さな足で街の中を駆けた。

あちこちの店で福袋が売られ、右には家族が、左には親しげな男女が道をゆく。




< 49 / 100 >

この作品をシェア

pagetop