*悪役オムニバス*【短編集】
それは子供ながら嶺子も薄々感づいていた。
だから彼らも、部屋に何台ものカメラをつけて、自分を見張っているのだ。
外に出たかった、この部屋にいたくなかった、という欲求が嶺子を動かした。
円柱型の塔の中で動き回る人々の目を盗み、非常階段を駆け下り、嶺子は足早に自動ドアをくぐった。
【第一研究棟】
そう礎に彫られた文字には目もくれず、嶺子は走り出した。
高々と並ぶビル。
小洒落た服屋。
華やかな人々で賑わう料理店。
化粧の濃い少女たちが集う、奇妙な店。
この小さな都市部から一歩外に出れば、その先は昭和風の田舎町だ。
しかしこの小さな都市は、その渋谷のような都会的なつくりで人を集める。
塔から一歩外に出れば、そこは人が行きかう道だった。
「わあ」
嶺子は目を輝かせ、小さな足で街の中を駆けた。
あちこちの店で福袋が売られ、右には家族が、左には親しげな男女が道をゆく。