*悪役オムニバス*【短編集】
その時サナの身体に、ごわごわとした布が触れた。
少年が覆いかぶさったのである。
「お願い……します……やめてっ……」
とうとう何かを悟った少女は藁をも掴む思いでいまいちど懇願した。
だが、冷酷無慈悲とはよく言ったものだ。
サナの腕を押さえつけていた手が、その柔らかな肌に食い込んだ。
「あっつ……!」
鋭敏な爪が肌を裂いた。
爪が刺さる痛みに顔を歪める少女を見下ろし、少年は静々と言った。
「それ以上言えば、殺すぞ。
たっぷり嬲った後でだ」
少年は爪を食い込ませたまま命じた。
殺してくれるのなら今すぐにでも殺して欲しかった。
しかしさんざんは嬲りものにされて殺されることは、それこそ最悪の事態だった。
柔な少女の上に、少年の身体がのしかかる。
傭兵というだけあって、小柄なれど屈強な身体だったが、サナにはそれが余計に怖かった。
(お母さん……)
ぼろりと涙がこぼれた。
生き延びなさいと、そう言い残して死んでいった女兵士の母。
そしていま少女は、その最愛の母を奪った国の一傭兵に嬲られるのだ。
なんと無惨で儚い話か。
涙を拭うことさえできず、サナは落涙したまま、ただ未経験な痛みが過ぎ去るのをじっと待った。