*悪役オムニバス*【短編集】
おろおろとした足取りで、嶺子はまた表街道を駆けた。
自分が何かしたのだろうか。
嶺子は疑問に思うばかりだった。
その大きな疑問に頭を塞がれ、小綺麗なイタリアン料理店から香る甘い匂いさえわからない。
ただ、どうしてだろう、と考えながら走っていた。
そしてふと、気がついた。
自分とすれ違う人が、ぎょっとして自分を見ているのだ。
驚いたというよりは、なにか凄惨なものをみたような、怖気を孕んだ瞳だ。
「なんだありゃあ」
嶺子の後ろで、誰かがそんなことを言った。