*悪役オムニバス*【短編集】
中学校の隣には、小さな森がある。
うっそうと木々が茂り、昼間でさえ薄暗い不気味な場所だ。
夜になればなおのこと。
月光さえ通さない森の中は、まさしく暗黒だ。
そんな、咫尺を弁ぜぬ闇の中。
白い生地のセーラー服に、紅い液体が撒き散らされた。
「あっ……!」
冷たい。
しかも生臭い水だ。
優菜は土のうえに尻餅をついた。
森の中にある古い神社の中で、数人の男女が優菜を囲んでいる。
「きったねえ」
茶髪の女子生徒が、ペットボトルを片手に嗤った。
彼女の他にも、女子生徒が五人、男子生徒が四人もいる。
クラスの中でも、特に激しいいじめを行っている筆頭たちだ。
「優菜あ、それ何かわかんないでしょ」
茶髪の女子生徒ーーー美香(みか)が唇を釣り上げた。
たしかに、具体的なことはわからない。
しかしーーーこの液体が、なにかの動物の血液だということは、生ぐさい臭いでわかる。
「野良猫の血だよ。
白い生地に血の色なんて、あんたにお似合いでしょ?」
美香の言葉とともに、周囲から笑声が湧いた。
酷いことをする。
ペットボトルに入るだけの量を採ったのだから、おそらく、猫は首を描き切られて殺されたのだろう。
優菜は、これだけのために命を落とした野良猫を思い浮かべて、下から美香一味を睨みあげた。
「なんだよ、その目は!
喧嘩売ってんのか⁉︎」
図体の大きい男子生徒が、優菜の鳩尾を強く蹴った。
息が詰まった。
優菜は咳き込んで、そこにうずくまる。