*悪役オムニバス*【短編集】
「うちらがメールするまで、そっからでるんじゃないよ?
出たら殺すから」
彼らはそう言うと、外から戸に鍵をかけ、さっさと神社の外へと歩いて行った。
「ま、まって……」
慣れているとはいえ、優菜は狼狽した。
噂にしても、バケモノが出ると言われる堂の中に置いていかれると、恐怖心が増した。
蚊の鳴くような声がこぼれたが、当然ながら、彼らが聞き入れてくれるはずもない。
彼らは、高い笑い声を上げながら消えた。
優菜は歯を食いしばる。
血なまぐさい臭いと、冬の寒さが、優菜の精神を削った。
子供のくだらない遊びだ。
いつか必ず、猛勉強の末に社会的な地位を得て、彼らを見下してやろう。
そう心に決めたのに、なぜか時折、いっそ死んでしまった方が楽なのではないかとさえ思えてしまう。
(死んじゃだめ)
こぼれ落ちた涙を飲み、優菜は耐える。
学力は進級してから以前、テストでは学年一位を保ち続けている。
これならば、きっと有名な難関校にも進めるのだ。
あと二ヶ月、耐え忍ばなくてはならない。
優菜はぐっと堪えて、恐怖と悲壮感に押しつぶされそうな自分を励ましていた。
その、刹那。
ぎしり、と御堂の奥で床が軋んだ。
「美しい……」
そんな声がした。