*悪役オムニバス*【短編集】
「憐れよの。
まだひとつにもならぬ、幼い猫だったろうに……」
なんの感情も宿さぬ顔で、漣は言った。
どうやら血を舐めただけで、猫の年がわかったらしい。
優菜は唇を噛み締めていた。
思い出せば思い出すほど、彼らは、本当にひどいことをする。
もし自分に弟妹がいたなら、きっと彼らは弟妹にまで手を出していたに違いない。
優菜は、自分がひとりっ子であることに安堵するのだった。
「優菜よ、そんな怖い顔をするな。
美貌が形無しではないか」
漣は優菜の頬を撫で、静かに唇を吸う。
「儂の女となるからには、今宵、それなりの“儀式”をすることになるぞ」
漣はひときわ優しい声で言うと、優菜の背中に手を当て、ゆっくりと床に倒した。
何度か無理やりに男を受け入れていた優菜だったが、この日は、あの燃え盛るような激しさは感じなかった。