*悪役オムニバス*【短編集】
一見、京都に佇んでいそうな荘厳な門である。
漣はそれをゆっくりと開けた。
「この先にいるのが、我らが仲間ぞ」
漣の言葉とともに、門から不気味な霧がもうもうとこぼれた。
その霧に混じって、禍々しい青白の焔が宙で光る。
そして門の奥から、
「漣さまじゃ」
と、しわがれた声が聞こえた。
「漣さまのお帰りじゃぞ!」
しわがれた声が叫んだ。
優菜は目を瞠る。
門の先に広がっていたのは、まるで平安朝の貴族邸宅のような屋敷だった。
広間の奥にある妻戸が開け放たれ、そこには絵草紙に描かれたものに似た、都の風景が広がっている。
この屋敷は高所に建っているのだろう。
都の寺や住宅が一目で眺められる。
「すごい……」
思わず呟いた優菜の肩に、漣がそっと手を置いた。
「儂の屋敷じゃ」
漣はそう言うと、優菜の肩を抱いたまま門をくぐり、畳の広間へと踏み入った。
無人の広間だ。
しかしそこはなんだか温かく、無数の人がそこに密集しているように感じる。
「花嫁を連れてきたぞ!」
漣は広間の奥に向かって声を張り上げた。
門が音を立てて閉じる。
すると、誰もいなかった広間から、霞んだ笑い声が湧いた。
「漣さまが、花嫁をお連れになった」
「まあ、なんと美しい娘だこと」
「漣さま好みの女だ。
しかもこいつは、上玉だぜ」
あちらこちらから声が飛び、広間の空気が陽炎のように揺らぐ。
刹那ーーー無数の怪物たちが、瞬く間に広間に溢れた。
おぞましく、奇怪な姿をした怪物たちが、漣に向かって正座をしている。
「儂の仲間……みな妖(あやかし)よ」
漣は白い牙をむきだした。