*悪役オムニバス*【短編集】
「あや、かし……」
優菜は呆然としてつぶやき、妖ひとりひとりに目を向ける。
姿形は、たしかに身の毛がよだつ。
しかしその眼を見てみれば、みな無垢な子供のような瞳で、溢れんばかりの輝きを湛えている。
「花嫁しゃま」
可愛らしい声をあげて、妖の群れの中から、着物姿の幼い少女が、優菜の前に駆け寄った。
その手には、妖艶な色をした薊(あざみ)の花が握られている。
「これ、私たちが積んできました。
花嫁しゃまにって」
髪を長く伸ばした少女には、黒い瞳の部分がなかった。
白目に血管が浮き上がっているだけだ。
しかしその顔は、年相応の少女のものだった。
優菜はしゃがみ込み、白目の少女に優しく微笑んだ。
「ありがとう。
わたし、紫色は大好きなの」
そう言ってやると、少女はにこりと唇を吊り上げた。
そして薊の花を優菜に差し出し、妖の群れへと引っ込んで行った。
じわりと心が溶けるような癒し。
久しぶりの感覚に、優菜は自ずと笑みを浮かべていた。
「よいところであろう」
漣はどこか誇らしげに眉を上げた。
「はい、とても」
優菜は大きくうなづいた。
その様子を満足げに見おろすと、漣はそこに胡座をかいた。
見れば、後ろにあったはずの門は消え去り、代わりに百鬼夜行の描かれた屏風が広がっている。
漣が優菜を手招いた。
隣に座れ、ということなのだろう。
優菜は漣の隣に膝をつき、静々と座した。