*悪役オムニバス*【短編集】
そう言うと、漣は白い手で広袖の袂を探る。
その手が取り出したのは、漆黒の髪の毛だった。
「晩餐の主食は、かならず“人の肉”と決めておるのよ。
とくに、そなたくらいの年頃の子供は、格段に美味い」
漣は舌なめずりをする。
「夜のうちに子供を攫い、晩餐で喰らう。
それが我らの喰い方よ」
漣の言葉を聞いて、優菜はかっと目を見開いていた。
どうやら、さきほど彼らが言っていた「肉」とは、人の肉だったらしい。
しかも「生きたまま食うのがいちばん」と言われて居るのだから、おそらく、攫ってきた子供は生きているうちに食すのだろう。
「私くらいの子供を、攫って食べるんですか……?」
優菜が訊くと、漣は大きくうなづいた。
「うむ。言っておくが、殺さないくれとは言うでないぞ。
それをしてしまえば、妖どもが怒り狂うだろうからな」
「いえ、そういうことじゃないんですけど……」
優菜はもじもじとして、上目遣いに漣を見据えた。
「どうした、そんな甘えた顔をして」
「あんまり無差別に攫うと、帰って可哀想な気もしますので……」
優菜はそして、漣の胸に寄り添い、そっと耳打ちした。
「私が贄となる人間を紹介いたします。
皆、私と同い年ですよ」