*悪役オムニバス*【短編集】




そう言うと、漣は白い手で広袖の袂を探る。

その手が取り出したのは、漆黒の髪の毛だった。


「晩餐の主食は、かならず“人の肉”と決めておるのよ。
とくに、そなたくらいの年頃の子供は、格段に美味い」


漣は舌なめずりをする。


「夜のうちに子供を攫い、晩餐で喰らう。
それが我らの喰い方よ」


漣の言葉を聞いて、優菜はかっと目を見開いていた。

どうやら、さきほど彼らが言っていた「肉」とは、人の肉だったらしい。

しかも「生きたまま食うのがいちばん」と言われて居るのだから、おそらく、攫ってきた子供は生きているうちに食すのだろう。


「私くらいの子供を、攫って食べるんですか……?」


優菜が訊くと、漣は大きくうなづいた。


「うむ。言っておくが、殺さないくれとは言うでないぞ。
それをしてしまえば、妖どもが怒り狂うだろうからな」

「いえ、そういうことじゃないんですけど……」


優菜はもじもじとして、上目遣いに漣を見据えた。


「どうした、そんな甘えた顔をして」

「あんまり無差別に攫うと、帰って可哀想な気もしますので……」


優菜はそして、漣の胸に寄り添い、そっと耳打ちした。







「私が贄となる人間を紹介いたします。
皆、私と同い年ですよ」













< 84 / 100 >

この作品をシェア

pagetop