*悪役オムニバス*【短編集】
*
ベットで眠っていたはずだが、やけに背中が痛い。
はっとして、美香は飛び起きた。
電気が僅かな白い光を放つ、薄暗い教室。
美香は机のない教室の床に、眠らされていたのだった。
見れば、美香の他にも大人数の人が倒れている。
「先生、みんな……?」
美香は呆然とする。
夢でも見ている気分だ。
いつも自分たちが授業を受けている教室で、あろうことか、担任とクラスメイトたちが倒れている。
数えれば、ざっと美香と担任教師を含めて二十九人。
ほぼクラス全員である。
優菜を、除いては。
「お、おい美香……」
固まって動けない美香に、共に行動をしていた男子生徒が歩み寄る。
「これ、どうなってんだ?
なんで皆……」
「私に訊かないでよ。
気がついたらここにいて、皆がいたんだから。
それより……」
美香はクラスメイトたちを見渡して、
「優菜はどこ?
なんであいつだけいないわけ?」
と、声を尖らせた。
「知らねえよ、そんなもん」
「これ、あいつがやったんじゃないの?あいつ、クラス全員のこと恨んでんでしょ?
いじめのことで!」
「慎重になれよ。
あんな細い女が、これだけの人数を運び出せるわけないだろ。
女だけならまだしも、男も全員いるぜ」
男子生徒は言う。
確かに、冷静になって考えてみればそうだ。
優菜……並みの女子中学生に、大柄の男子生徒を運ぶことはできない。
しかも、クラスメイト全員を単独行動で運ぶには無理がある。
美香が腕時計を見れば、時刻はすでに午前二時半だ。
すくなくとも、美香が眠りについた午後十一時からクラスメイトたちを運び出したとしても、全員を攫うことはできない。
クラスメイトの中には、学校から遠く離れた場所に住む者もいる。
車も運転できない中学生が、人を運ぶとしたら、後は徒歩くらいしか思いつかない。
まず眠った人を自転車に乗せることは不可能だ。
優菜はどう考えても白である。
しかし、なぜ優菜だけがここにいないのか、美香には全く解せなかった。