*悪役オムニバス*【短編集】
「……死ねよ」
ぽつりと呟いて、マスラはそこにうずくまる。
死ねよ。
死ねよ、死ねよ。
ーーー死んじまえよ、お前なんか。
マスラは何度もつぶやく。
水鏡に映った自身の顔に向かって、小さな罵声を放つ。
少年兵は唇を噛んでいた。
それが薄い皮を破り、口の端に血の筋が走っても、マスラはなおも強く、唇を噛みしめる。
さらにマスラは、まだ足りぬとばかりにポケットからナイフを取り出し、
ぶちゅり、
と、自身の左腕にそれを突き立てた。
ぶちゅり、ぶちゅり、ぶちゅり、ぶちゅり、ぶちゅり、ぶちゅり、ぶちゅり……。
気が遠くなるほどに腕を刺した。
激痛で頭がどうにかなってしまいそうだった。
しかし何もしなければ、罪悪感と自己嫌悪に押しつぶされ、それこそ狂ってしまいそうだった。
「ーーーあぐ」
かつん、とナイフの切っ先が、肉の中にある硬いものを叩く。
とうとうマスラは、腕を刺す手を止めた。
痛い。
肉をやたらめったらに引き裂いた痛みは、とても言葉にできるものではなかった。
「ぐうっ……」
マスラは痛さのあまりに地に伏し、吹き出た汗を右腕で拭った。
「い、てえ」
マスラは自分で呟いて、その実、先ほどの自信を振り返り、自嘲した。
……痛みを味わうことはすこぶる嫌いなのに、なぜか、その痛みを人に与えてしまう。
自分がされて嫌なことを人にする、を地で行っている。
(くそ)
ひれ伏したまま、マスラは呻いたのだった。