*悪役オムニバス*【短編集】
「それはおいらの腕だよう」
「おらが先に見つけたんだぞ」
「譲れよ。
こいつを仕留めたのは俺だもん」
泡を吹き、顔を青くして絶命した担任教師の肉を巡って、毛だらけの子供たちが言い争いを始めている。
そこへ、幼子を胸に抱えた母親が、鉈を手にやってくる。
「ほらほら、婚礼の宴で騒ぐんじゃないよ、みっともない。
切り分けたげるから、皆で並びな」
そう言うと、母親は担任教師の服を剥ぎ、その豊満な肉体を眺める。
「乳房と太腿は、いい具合の柔らかさだねえ」
そして母親は、その右脚と乳房を鉈で切り取り、子供たちの食べやすい大きさに切り分ける。
子供たちはその肉を、さも旨そうに頬張るのだった。
「美味いよ、母ちゃん」
べっとりと口の周りを血で汚した子供たちは、口を揃えて言った。
「宴の時でさえ、探し当てて攫ってこれる子供の数は六、七人だからねえ。
こんなにたくさん攫って来られるなんて、滅多にないんだ。
坊やたち、どんどん食べるんだよ」
母親は美しい笑顔で、そう言ってみせた。
優菜はその光景を優しげな視線で見つめ、さっと真横に視線を移した。
「ひっ」
優菜の目線の先で、壁際に追い込まれた男子生徒が、押し殺した悲鳴を上げた。
人より体格が良く、力も強い。
優菜を押さえ込み、殴り、何度も性交を強いた男だ。
もちろん、優菜に性的暴力を加えたのは、この男ひとりではない。
だが優菜へのいじめの言い出しっぺであり、他の男子生徒に促すのは、この男である。
「克利(かつとし)……」
優菜は途端、冷酷な眼差しになって、そのまま男子生徒・克利に歩み寄った。