*悪役オムニバス*【短編集】
*
はっ、はっ、はっ……。
美香は息を切らし、階段を駆け下りていった。
その眼に涙をため、渡り廊下への出口に向かって、走る。
一緒に逃げた仲間も、トイレに隠れていた仲間も、みな捕まった。
無残に食われていく仲間を見ることもできず、美香は独り孤独に逃げ道をかけていたのだった。
(渡り廊下!)
眼前に、外への扉が見える。
美香は急いでドアの鍵を開け、外へ通じる渡り廊下へと飛び出した。
ーーーところが。
渡り廊下へと飛び出し、外に手を伸ばした瞬間、美香の手は何かにぶち当たった。
(な、なに)
美香はもういちど、なにもない外の光景に向かって手を伸ばす。
しかし、手が外に出ることはなかった。
なにか、見えないガラスのようなものに遮られ、外に出られない。
「な……」
美香は血の気を失った。
「なんでなのよおおおお‼︎」
泣き叫び、美香は手当たり次第に外の風景を叩いた。
しかし、叩いたところで、見えない壁が壊れることはない。
とうとう、美香は力尽きてその場に崩れ落ちた。
(なんで……)
なんで、こんなことに?
美香は心の内で繰り返していたが、優菜の様子を見る限り、原因は火を見るより明らかだった。
優菜が仕返しに来たのだ。