*悪役オムニバス*【短編集】




*


ずる、ずる、ずる、ずる。


多数のクラスメイトが跡形もなく喰われ、その血飛沫さえ舐め取られた教室。

その教室に、美香は変わり果てた姿で連れて来られた。

両手両足の指を全てもぎ取られ、立つことも儘ならぬ惨めな美香が、優菜の前に倒れた。


「あらやだ、漣さまったら。
いちばん美味い肉を、先に味見しちゃったのね。
ちゃんとあたしらにもわけとくれよ」

「わかっておるさ」


優菜の傍で、二口女と漣が、そんな会話を交わしている。

優菜は恬然として美香を見下ろしていた。


「ゆっ……優菜っ……」


美香は指を千切られた痛みに息を切らしながらも、優菜を見上げた。

冷たい眼差しだ。

先日までの弱々しい姿は、どこにもない。

……いや、元から優菜は、弱々しい女ではなかったのではないか。

あえて弱々しく見せていただけで、内面はいつだって毅然としていたのだとしたら。

優菜は豹変したのではなく、もともとからそういう人物だったのかとも思えた。


……が、それが表に出てしまうほどに追い詰めたのは、他でもない美香たちだ。

クラスメイトが惨殺され、自らもまた拷問同然の目に遭わされ、ようやくわかった。



優菜は、こんな気分だったのだろう。




同じ気分になって、ようやく美香は思い知った。



「……優菜……ごめんね……」


美香は訴えた。


「私っ……優菜に、男……とられたって……思ったから……。
それだけで……ずっと酷いことを……」


美香はおぼつかぬ口調で謝った。

許してもらえるとは、毛頭思っていない。

確実に殺されるだろうと、美香は痛みをもって覚悟していた。


「いまさら命乞いなんざ、聞き入れやしないよ」


爛々と目を光らせた二口女が、歯をむき出す。

しかし、そんな二口女を、優菜は「まって」と遮った。


「ちょっとだけ……話がしたいの」


優菜は静かに言うなり、美香の前に膝をついた。





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