一生に二度の初恋を『あなたへ』


――あぁ、もう駄目だ。



雷が大きな音を立てて落ちる。

その度に光のない密室に閃光が走り、今の状況が現実だということを思い知らされる。



斎藤くんは。

わたしに……。違う。『春』と。


キスした。



違う人へのキスと分かってて逃げないのは狂ってる?それでもいい。

そう思える程キスは甘い。


唇と唇が微かに触れた柔らかい感触。

全てとろけてしまいそうなわたしは、これは自分に向けてのものではないという理性だけで、今立っていられる。



唇はわたしに、けれど遠い世界の春さんへのキス。

そんなの、この状況で分からない方が可笑しいよね。


夢だと信じたくても、触れている感触は確かに存在していた。

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