一生に二度の初恋を『あなたへ』
後ろから少し見える父さんの横顔に、いくつもの痛々しい痣のような、青と黒が濃く混ざった傷があった。
母さんだ。絶対。
父さんは男だから、誰にやられそうになったって抵抗してこんな一方的な傷にはならない。
父さんが抵抗して傷つけることができない唯一の相手は母さんだと思う。
そして父さんが抵抗しないのは母さんに引目があるからではなく、父さんの優しさだと信じたい。
「雷斗は?」
「大丈夫だ」
父さんはなるべく喋らないようにと、俺に言うかのように早口で一言かえした。
玄関のドアをドアノブを捻った後にそっと開けると、もう夜になっていたことに気付いた。
あそこの部屋は窓もないからな。
俺がまだ幼かった頃、悪いことをするとよく閉じ込められていたけれど、一時間程で母さんか父さんが『反省した?』そう聞いて、俺が答えると開けてくれた。
こんなに長くいたのは、そういえば初めてだ。
俺が何悪いことしたって言うのだろうな。高校生にもなって。
……あぁそうか。
母さんを、家族を残してこの家にを出たことなんだな。