一生に二度の初恋を『あなたへ』
「どうした……?」
「え、あ……何でもないの」
蘇ってた、お父さんと仲良かった頃の記憶。お父さんが崩れていった記憶。フィードバックされるように一気に。
でも、不思議と今は何も起こらなかった。
いつもならこういうとき、すぐに頭が痛くなる。
斎藤くんがいるから。
苦しみに気づいて、寄り添ってくれる人がわたしにはいるから。
だから、わたしは大丈夫なのかもしれない。
「夕陽、見に行こう」
「え?」
「俺、綺麗に見える場所見つけたから。もうすぐ沈むし、行くぞ」
わたしは手を急に引かれて転びそうになりながらも斎藤くんを追いかけた。
陸上部恐るべし。速い。
斎藤くんに手を引かれていると、わたしまで走るのが速くなった気がして、通り過ぎていく景色が違って見えた。