一生に二度の初恋を『あなたへ』
「ありがとう瞬くん」
「高梨さんのためだけじゃないよ」
瞬くんは笑うけど、わたしのためだけじゃなかったら誰のためになるんだろう。
「瞬くんは行かないの?」
「俺はちょっと用があるから。それに二人を邪魔するつもりはないな」
「邪魔なんて、そんな……。じゃあ。バイバイだね」
「うん、じゃあね」
わたしは教室から出た。
「俺がいなくなったらさ、俺の知らないところで、誰かと二人きりとかそういう状況も沢山出来るんだなって感じた」
横に並んで電気の付いてない暗い中、階段を一段ずつ降りていると、斎藤くんは突拍子もなくそんなことを呟いた。
その言葉に少しだけ嬉しくなって、階段を一段飛ばして踊り場に降りると下から斎藤くんの顔を覗き込んだ。
「ヤキモチ焼いてくれてるの?」
「もう少しだけ。許してくれ」
もう少しだけ……か。そうだね。もう少しだけ。
わたしは、ヤキモチも時間が経てば消えるよね、なんていう残酷な言葉を口に出来るほどまだ吹っ切れてないけれど、斎藤くんは……。