一生に二度の初恋を『あなたへ』
「次は○○駅ー」
起こすのは悪いけど斎藤くんだってあまり遅くに帰る訳にはいかないだろうから、このまま降り過ごすわけにはいかない。
「斎藤くん。次」
肩を人差し指で小さく何回も突くと、小さい子みたいに目をこすりながら虚ろな目で起き上がった。
あ。こういうとき、頬っぺたを突いてみたりすればいいのかな。
「俺寝てた……?ごめん」
「ううん。お疲れ様」
電車から降りるとゆっくりと歩きながらたわいもない話を沢山した。
誰が何をしたとか、今日は何があったとか。
知り合いの多い斎藤くんの話にはわたしの知らない人が沢山でてくるけれど、話を聞いただけでその人のことを知ったような気分になるから面白い。
淡いオレンジ色の光がカーテンから漏れるわたしの家の前で立ち止まると、斎藤くんはわたしが濡れないように傘をわたしの方に傾けて、物憂げな表情で空を見上げた。
「じゃあな、って言いたくないんだけどどうすればいいんだろうな」