一生に二度の初恋を『あなたへ』
「春ちゃん……帰ってきたんだね」
わたしは微笑みながら答える。
「今は違いますけどね」
斎藤くん……尚のお父さんは不思議そうな顔で首を傾げたけれど、何も聞かずにいてくれた。
「あいにくだけど尚はスーパーで夕飯買いに行ってるんだ、学校も……今は行ってなくてね。
中でも入って待ってる?」
「あ、そうなんですか……。
ご迷惑ですし、わたし大通りの時計のところで待ってるので、来て欲しいと伝えてもらっていいですか?」
「うん、分かったよ」
その後わたしはお父さんのところに行った。
わたしが春の記憶も戻ったことを言うと、お父さんは複雑な顔にはなったものの少し解放されたような表情に変わった。
だからといってわたしのことを好きになってもらえた訳じゃないけれど、これで良かったんだと思う。
今のわたしにはそれが限界。
そう、今のわたしには。未来のわたしは分からない。
家族が復活することだって夢じゃない。
大通りの時計の前、に来てから何時間が経っただろう。
来た時は二時ぐらいだったはずなのに、もう時計の針は五時を指している。
斎藤くんはもう帰って来てるんじゃないの?なのに来てくれないってことは……わたしに逢いたくないってことなんだろうか。