一生に二度の初恋を『あなたへ』
エピローグ
わたしは上手く伝えられただろうか。
わたしの後ろでおばあちゃんと一緒に布団に包まって寝ている春を横目で見ると、最後に『母より』と書いてペンを机の上に置いた。
そして机にあるオレンジ色の小さなライトをそっと消す。
「ただいま」
声がして玄関に出ると、急に虚ろな目で頬に優しく手を触れられ、ただそれだけなのにドキドキしたわたしは目を閉じてしまう。
春がいる今でもこういうことに関してはまだまだ子ども。
そして……今日は会社で何かあったんだろうな。
分かりにくいけれど、分かる。いつもこういう目をするから。
「…おかえりなさい」
ずっと夢だった。
『ただいま』『おかえりなさい』そんなやりとりが出来る日常は今じゃ当たり前だ。
手はゆっくりと離されて、彼はこの前買い換えたばかりの新品の靴を脱ぐ。
「春と母さんは?」
「わたしたちのベッドで二人仲良くぐっすり」
「そうかー。じゃあ今日も俺はリビングで雑魚寝だな」
「おばあちゃんのベッドで一緒に寝る?」
「…いや。それは流石に……」
そんな会話をしながら、リビングに行こうとすると不意にさっきまでわたしがいた部屋のドアが開いた。