一生に二度の初恋を『あなたへ』
玄関に斎藤くんが、いる。
何でだろう、斎藤くんのことをよく知ってる訳ではないのに……斎藤くんの行動が今は分かる。
待ってくれなくてもいいと言っても待ってくれてる、そんな斎藤くんのことが。
下駄箱に寄りかかって暗くなった外をぼんやりと虚ろな目で眺めてる人。
顔はわたしの場所からは見えないけれど、その人が誰かはもう十分と言って良いほどに分かっていた。
ほら……ね。やっぱり。
「待ってなくても良かったのに。わたし電車で、駅すぐそこだし」
「待つかどうかは俺の勝手だろ?」
「そう、だけど……」
「行こうぜ」
わたしに有無を言わせない口調でわたしの言葉を遮って、前を歩き出す。
それを追いかけるようにわたしも歩き出した。
わたしたちの距離は近くもなく、遠くもない。
少し話したら沈黙、その繰り返し。
でも何故かその沈黙でさえも居心地が良かった。
変に会話してぎこちなくなるよりもずっと……。
言葉じゃないと伝わらないことなんて沢山あるけれど、言葉にしなくても伝わってることだってあるんじゃないかな。
そう思うわたしは逃げ道を作ってるだけ?
「じゃあな」
「うん」
学校から直ぐに着いてしまう駅。
それと同時に鳴り出す踏み切り。
背を向けて遠くなっていく斎藤くん。