一生に二度の初恋を『あなたへ』
「お取り込み中だった……か?」
「大丈夫ですよ」
斎藤くんは涼しい顔でそう答えた。
潮波先生……良かった。
『斎藤くんの笑顔はわたしを笑顔にさせてくれるよ』
『自然と出てくる笑顔なら、どんなものでも本物だよ』
そんな綺麗事のような言葉なんて、どう言っても軽く聞こえてしまって言えなかった。
何が今の斎藤くんにとって正しい言葉なのか……わたしには分からなくて、何も言えなくて……やっぱりまだわたしは変われてないんだなと実感する。
「じゃあすまないが、高梨ちょっと借りるな」
思い当たる節もないけど、わたし、何かしちゃったかな……。
数学のプリントで解き忘れがあったとかかな。それぐらいしか覚えがない。
廊下に連れ出されると、真剣な目で見てくる先生に思わず身を小さく震わせてしまった。