一生に二度の初恋を『あなたへ』


「お取り込み中だった……か?」

「大丈夫ですよ」


斎藤くんは涼しい顔でそう答えた。


潮波先生……良かった。



『斎藤くんの笑顔はわたしを笑顔にさせてくれるよ』

『自然と出てくる笑顔なら、どんなものでも本物だよ』


そんな綺麗事のような言葉なんて、どう言っても軽く聞こえてしまって言えなかった。


何が今の斎藤くんにとって正しい言葉なのか……わたしには分からなくて、何も言えなくて……やっぱりまだわたしは変われてないんだなと実感する。



「じゃあすまないが、高梨ちょっと借りるな」

思い当たる節もないけど、わたし、何かしちゃったかな……。


数学のプリントで解き忘れがあったとかかな。それぐらいしか覚えがない。



廊下に連れ出されると、真剣な目で見てくる先生に思わず身を小さく震わせてしまった。

< 51 / 215 >

この作品をシェア

pagetop