一生に二度の初恋を『あなたへ』
同姓同名の可能性もあるよね。
取り乱した先生のことは、誰にも話さずに心の中にしまっておこうと思った。
さっきの事で少しぐちゃっとなった桜色の封筒を眺めると、桜を思い出して、そこから繋がって斎藤くんの笑顔を思い出す。
それと同時にこの手紙のせいで、その笑顔が壊れるような気がした。
春さんのせいだよ…。
春さんに対しての好きは過去に捕らわれてるだけ、なんていう自分に都合のいいようなことまで考えた。
あぁ、わたし……性格悪いな。
今までこんなに嫌な人だった?
でも、たとえ私が嫌な人でもそうじゃなかったとしても…この手紙は渡さないといけない。
手紙を持つ手を強める。
――斎藤くん。ごめんね。
……わたしは覚悟する時間をもう十分もらった。
だから、伝える。
でも……春さんのことを伝えても、いつもみたいに優しく笑っていて欲しいと思うのは、駄目かな……?
その斎藤くんが分からない笑顔を。人を笑顔にしてしまう笑顔を。
わたしが守りたいと思うのはいけないかな?
ねぇ、斎藤くん。あのね――。
緊張で汗ばむ手でわたしは、斎藤くんが待っている教室のドアを、開けた。