一生に二度の初恋を『あなたへ』
今日はお互いに電話で連絡を取り合って、わたしのお気に入りのこの店で会うことになった。
でも内緒で来たらしい笑ちゃんはさっきから周りを気にして、誰かがこの店に入って来る度にドアの方を怖い顔で見つめてはひと息吐いている。
こんな遠いところで知り合いになんか滅多に会わないと思うし、そんな警戒しなくても大丈夫だと思うんだけど。
でもドキドキしてしまう気持ちもすごく分かる。
こういうときって、周りの人みんな知り合いに見えたりするよね。
わたしは黙って頷いた。
「見送りとかも大丈夫だから‼︎」
「え……でも」
「いーのいーの。じゃあね‼︎」
笑ちゃんは高いヒールの靴をコツコツと鳴らしながら駅へと向かう一本道を歩いて、だんだん遠くなっていった。
今度はもっとゆっくり話したいな。
しばらくの間後ろ姿を見つめるとわたしも反対方向にある家へと歩き出す。
向い風は冷たくて刺すように痛い。
風は完全に冬。天気は晴れだけれど、怪しい雲も見える。
雪降るのかな……空を見ながら少し憂鬱な気分で歩いた。