カンナの花


その始まりは唐突で、かつなんでもなかった。


高校3年の夏、わたしは車の免許を取りに、教習所での合宿に参加した。


その教習所があるのは、青春ものの邦画にでも出てきそうなレベルの田舎。


単線しかない最寄り駅から迎えのバスに乗り込んだ。教習所に着くと、名前のわからない背の高い青い草が、敷地の周りを囲んでいる景色が目に飛び込んできた。




合宿に参加しているのは、すでに高校を卒業したような人ばかり。

それだけでただでさえ絡みにくい上に、いる人と言えば、チャラチャラしているか、ギャルギャルしているか、ぼんやりしていて冴えない感じの草食系男子か…


合宿の最初の日、とにかくわたしはひとりだった。
半ばそれを自発的に選んでいた節もなくはなかったけれど、さみしくないと言ったら嘘になる。


本来は誰かと相部屋のはずが偶然ひとり余ってしまって、与えられたウィークリーマンションのような部屋で、与えられたほか弁をひとりで食べながら、テレビをつけて、さして興味もないバラエティを適当に流しておいた。


夜の11時くらいには、退屈になって寝た。
本当は受験勉強をしてなきゃいけないのに、わたしは何をやっているんだろう。どうしてここにいるんだろう。


そもそも行きたくなんかなかった合宿。
それでも親に行けと言われて来た合宿。


受験生がすることじゃないと言ったら、教習くらい行っても勉強の差し支えにはなるまい、24時間勉強しているわけでもないくせに、と返されて、何も言えなくなった。


< 11 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop