カンナの花
人見知りで軽い適応障害があるわたしに、そんな知らない人ばかりの環境に入ってこいと言う方がどうかしている。親としては、荒療治のつもりだったんだろうな。
不本意な状況に、わたしは正直拗ねていた。
彼に会うまでは。
彼に会ったのは合宿2日目のこと。
学科と技能の授業がどちらもなくて、暇を持て余したわたしは教習所の待合室にいた。夕方に授業が残っているから帰るわけにもいかなかった。
なんでもなく、唐突に。
彼はわたしの隣に座った。
「隣、いい?」なんて言いながら。
「いいですよ。」と言いつつ、
こんなにも≪近づくなオーラ≫を出しているわたしに声をかけるなんて物好きだなぁ、と思ったのをよく覚えている。
彼は自分をおじさんだと言った。歳は26。確かに教習所に通うにしては年上だけれど、だからって若くないわけじゃない。
「なんの勉強してんの?」
まぁ気になるのも当然だろう。
みんなが免許のための勉強をするかくだらない話に興じている中で、わたしだけはガチな受験参考書とノートを広げているんだから。
初めに抱いた彼への不信感はそうしてすぐに消えた。しかし自分でも、なぜそんなに彼の絡みを好意的に解釈したのかわからなかった。