カンナの花
なんでもない話が、なんだか弾んだ。
人がまばらにしかいない真夏の午後の待合室は、無駄にクーラーがガンガンかかっていて、その空間はだるっちいだけ。
そんな気怠い空気の中を、わたしたちの声が軽やかに跳ねていった。
やがて、何度目かの鐘が鳴って、自分が受けるべき講義の時間が来たことを知る。
その時初めて、3時間もしゃべりこんでいたことに気づいた。
「じゃ宮澤さんすいません。授業行ってきます。」
「いってらっしゃい。がんばってー。」
彼の名は宮澤英治といった。
授業もだるくて仕方なかったが、ペーパーテストが待っていることを思うと、気が抜けない。それでも、教科書に少し落書きをせずにはいられない程度には退屈だった。
だから、彼のことをちょっと考えた。
…また会えるかな。明日とか。…
しかし、その願いは授業の後にあっさりかなってしまう。
「佐衣ちゃんおつかれ。家が合宿所の近くだから、バス乗せてもらおうと思って待ってたら、授業ひとコマ終わっちゃった。」
一緒に乗ろう。彼は言った。
心の中で7人の小人が小躍りした。小人が心臓の壁でタップを鳴らす。運ばれる血液の温度が上がった。
でも、わたしは得意の能面フェイスで、あ、乗りましょう、と答える。
なんでもない。
そんな一瞬で、わたしが人を好きになるわけない。