カンナの花
10分もしないで、バスは合宿所に着いた。みんながガヤガヤとバスを降りる。段差を飛ぼうとしたら、宮澤さんに手を貸された。
チャラ男とギャルたちはそのまま、部屋に引き払った。どこかの部屋に集っているのかもしれない。
でも、わたしはそんなのどうでもよかった。
そして、さよならを言おうとしたら、彼はわたしを近くのコンビニに誘った。
「アイス食べない?」
夜になっても温度はさして下がらず、うだるような暑さの中で、それが自然な誘いではないと言えただろうか。
言えただろうな。
やたらわたしに絡んできて変だなって、思って然るべき。
でもその時のわたしはそうではなかった。
「アイス? 食べたい!」
わたしはあまりに無垢すぎた。
もうしばらく一緒にいたい、という意味だというのはさすがにわかっていたけれど、それが恋愛感情ではないに違いないと思っていたんだから。
あるいは、自分たちに芽生えたものが何なのか、薄々わかっていたのに、あえて気づかないふりをしていたのかも。
相手が既婚者だという現実から、目を逸らすために。