カンナの花


彼の話も聞いた。
大学時代に付き合っていた人のこと。社会人になってから忙しくて恋人にあまり向き合えなかったこと。ふられたこと。


失恋をして、自分の生きる意味をふと考えた時に、このまま会社員で自我を殺していてもいいのか、と疑問を持ったこと。


そんなことを考えていたある日、彼はひとりなんとなく立ち寄った本屋で、人気作家・西城冬樹のサイン会に遭遇。
気が向いて、新刊を買ってイベントの列に加わった。


「その時トークショーが同時開催でさ。西城さんが作家になったわけを話していたのね。

彼はレイトスターターなわけよ。それでも今や芥川賞作家として、新刊が出るたびに社会現象になって、テレビにも出るし、すごい影響力を持っている。

世の中には大学生の時に直木賞を取っちゃうような人もいるわけじゃん。だもん、レイトスターターが不利な面は当然ある。
でも西城さんはさ、それを全部うまく逆手に取ってきたんだよね。

そんな話を聞いて、オレすごい感銘を受けて。その時に西城冬樹のファンになったわけ。それまでは、普通に読むけど特別好きってわけでもなかったんだけどね。」


彼はその時決意した。オレの元々の"夢"は作家になることだった、今こそ、夢に向かってやり直す時ではないか、と。



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