カンナの花



力入ってないもんねー

彼は握ったまま私わたしの手を軽く振る。本当だ、力、入らない。


握り返してみて。
む、無理。無理。


たぶん顔は赤い。そんなわたしを見て彼は笑った。


じゃあこれは?


手が離れた。半ば無意識に彼の手の行方を追ったら、わたしの頭に近づいている。頭を、なでられるのか? 構えることもなく、ぼんやりとしていた。



次の瞬間、肩を抱かれていた。

彼のしたいことがわかって、体の力を抜いたらそっと引き寄せられた。わたしは彼の肩にもたれた。半ば自発的に。


こうして、彼の腕の中、という構図が生まれた。その状況を理解したのは一瞬あと。ぶるっと、鳥肌がたった時にはもう遅い。少し視線を上に向ければ、そこに彼の顔がある。近い。呼吸が聞こえる。


少女マンガばりの展開に、ただただ驚いていたけれども、一方で不思議と安心している自分がいた。
今日出会ったばかりの人なのに、抱き寄せられた瞬間から離さないでほしいと思った。そしてそんな事を思った自分にまた驚いた。


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