カンナの花



その瞬間、理性を忘れた。
わたしは顔をあげて彼を見つめた。



その時の彼の目が忘れられない。とてもエロスに満ちていた。何も知らないわたしはだんだん彼の視線に溶かされていく。わたしの視線まで温度は上がる。



そんなわたしの気持ちを全部見透かしていたのだろう。


彼はふいに。
チューしたら怒る?と言った。


頭が一瞬真っ白になる。

この人はそんなにわたしが欲しいの?


答えないわたしに、たたみかけるように彼は、ねぇ怒る?と急かす。


まさか今キスをする(しかもファースト)なんて想像もできなくて、怖くなって、わたしは、うん、怒る、って言ってしまったんだ。


残念そうに彼は引いた。


その姿に罪悪感を覚えなくもなかったが、少しほっとした、


のも束の間。


今、何を思ってんの?


どきっとした。思わず身震いした。彼はわたしの耳元で囁いたんだ。


何を思ってるの?


好きか嫌いか、聞きたいんでしょ。そうわかっていたけれど、言えやしない。そこまで神経図太くない。だって奥さんいるんでしょ?


ケータイ小説で人気の甘々小説とかを読むと、耳元で低音を聞いてとろけちゃう、みたいなシーンありふれていて、安っぽい気がして、ほんとにそうなのかなって疑っていた。


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