カンナの花




しばらく無言で彼の腕の中にいた。彼も黙っていた。でも気まずくはなくて、永遠にそうしていたい気すらしていた。


しかし、堪らなくなったのか、彼が右手もわたしの左肩に伸ばしてきて、両腕で抱かれた。彼に慣れつつあったけれど、やっぱり驚いて、わっと言ってしまった。


それでも彼は構わず、わたしの右肩に顔をうずめたまま抱く力を強めていく。


やがてふと右手の力が抜けて、肩からデコルテへと動かしていく。まるで、這うように。そして彼の手が、わたしのブラジャーのラインをなぞった。




「だーめ、そこまで。」


わたしの理性が戻った。おふざけを優しく咎めるように、妖しく微笑みながら手を振り払うと、彼は急に、ごめんね、と言った。


「いや別に…ここまで許したわたしも悪いんで。」


「え? なんて言った?」


「なんでもないです。いいです。大丈夫です。」


彼はもう一度わたしを自分にもたれさせてから、そろそろ帰ろうか、と言った。


「引き留めてごめんね」

「暇だったから…大丈夫です。」

「ひとり部屋さみしい?」

「いえ、そうでもないです。」


強がった。



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